岡山地方裁判所 昭和41年(わ)639号 判決
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〔判決理由〕被告人及び弁護人は、第二事実につき、被告人が松本正孝を解雇する際、松本には、同人が外部の者と通じて秋田物産株式会社の攪乱を図つたほか、その勤務状態も著しく不良であつたという労働基準法第二〇条第一項但書に規定する労働者の責に帰すべき事由が存したため、同条第一項本文に規定する解雇予告期間を置かず、または所定の平均賃金の支払をしなかつたものであり、したがつて、被告人は本件について責任はないと主張するので検討する。
労働基準法第二〇条第一項但書に規定する労働者の帰責事由は、労働者の地位、職責、勤務年限、勤務状態等を考慮し総合的に判断すべきであり、右事由は、同但書に規定する「天災事変その他やむを得ない事由のため事業の継続が不可能となつた場合」と同程度、換言すれば、同項本文の保護を労働者に与える必要のない程度に重大且つ悪質なものに限る趣旨と解すべきである。
本件についてこれを見るに、<証拠>によれば、次の事実が認められる。
一、松本正孝は自動車運転資格を取得した直後である昭和三八年一月五日秋田物産株式会社に雇われ、商品発送係として自動車を運転して得意先等に商品を運搬する業務に従事していたものであるところ、昭和三九年九月二〇日頃、所論の如く被告人から、松本がかつて同会社に勤務していたことのある池田悦次郎と通じて同会社の攪乱を図つたこと及び松本の勤務状態が著しく不良であることを理由として前示のとおり解雇されたこと
二、これより先、池田悦次郎は昭和三六年頃被告人の勧めもあつたため、秋田物産株式会社を退職し、自己が代表取締役となつて食料品の卸販売等を目的とする池田物産株式会社を設立し、爾後約三年間に亘り、秋田物産株式会社から従業員を数名引き抜いて雇入れたこと等から被告人は、昭和三八・九年頃より池田が秋田物産株式会社の従業員を煽動して同会社を攪乱し、これを乗取る陰謀を企てているのではないかと疑い、従業員の動静に注意を払い、池田等と交際したこと等些細な所為にかこつけて従業員数名を解雇したこと
三、被告人は、昭和三九年七月頃松本及び石井繁が池田と通じて前記の如き社内攪乱を謀つているのではないかと疑い、従業員荒木繁好に命じてその調査をさせたところ、同年九月頃同人から松本及び石井が同年一月三日頃池田の催した新年宴会に出席したとの報告を受けたので前記一の如く松本を解雇したところ、石井等から松本及び石井は池田の新年宴会に出席した事実はないから右解雇を取消して貰い度いと要求されたため、種々調査の結果右報告に誤りがない旨の確信を深めたこと、しかしながら、松本及び石井が池田の右新年宴会に出席した事実は幾分疑念の存することは否定できないが、これを認めるに足る証拠は存しないこと
四、松本正孝は、やや粗野で軽卒な性格であるところ、昭和三八年一月六日及び同年一一月二八日の二回に亘り、自動車を運転中、他車と軽い接触事故(前者の損害額五、〇〇〇円)を惹起し、同年四月三〇日運搬中のマヨネーズ二四個を紛失(損害額一、七〇〇円)し、同年五月二九日味かつお二〇〇個の返品処理手続を忘却し、更に昭和三九年二月五日煮干を誤配する等の失態を演じ、勤務状態は他の従業員に比し不良であるというべきであるけれども、右事故はいずれも同会社において中程度或は軽度(中程度一回、軽度四回)のものとして処理され、被告人はその損害の一部若しくは全部弁償し、或は注意を受けたに過ぎないこと右事実によれば、松本正孝が昭和三九年一月三日頃池田悦次郎の催した新年宴会に出席した事実は勿論、池田等と通じて秋田物産株式会社の攪乱を図つた事実をも認め難く、仮に、松本が右新年宴会に出席した事実が存したとしても、この一事をもつて直ちに同人が池田と通じて同会社の攪乱を図つたと推認することは早計であり、また松本の勤務状態は良好であるとは認め難いが、、同人の前示職責、勤続年数(運転者としての経験年数をも含む)等に徴すれば、或る程度の交通事故或は商品破損事故等も已むを得ないと認められる余地もあり、いまだ前示労働者の責に帰すべき事由に該当する程重大且つ悪質なものとは認められない。そうだとすると、被告人及び弁護人の主張は理由がないので採用し難い。(大下倉保四朗)